啓翁桜の生産工程
お正月に咲く啓翁桜は薄ピンクの可憐な花をたたえ冬のお家に温かさを演出してくれます。殺風景な冬に咲く桜はどれだけ見る人の心を暖めてくれることでしょう。お正月の縁起物として、また玄関で一足早く春の景色を一足先に届けてくれることもあります。
啓翁桜は、つぼみが開花すると薄紅色をしたボリューム感のある花がキレイに咲き揃い、明るい華やかさを演出してくれます。また、枝がスプレー状になるため、現代的なフラワーアレンジにもとても適しています。今回は啓翁桜の生産者の高橋正幸さんを取材させていただき、「啓翁桜のできるまで」というテーマでうかがってみました。
啓翁桜 親子2代の高橋ブランド
啓翁桜を咲かせるには、まず気温8℃以下の環境で3週間以上を過ごさせ、十分に寒さで樹を眠らせる休眠をとります。その後、切り出した啓翁桜の枝にお湯で処理を施し温室に入れて開花を促進させます。寒い時間が短いと桜は花を咲かせてはくれません。
秋の訪れが早い山形県では、桜も早い時期から休眠状態に入るため、早くに桜を目覚めさせることができるのです。そのおかげで、お正月に合わせた開花が可能になります。この啓翁桜の開花メカニズムを詳細に研究し、生け花の業界に修行に出たり、まさに手探りで誰もやっていなかった新しい「花木(かぼく)」という分野を耕してきました。
今では、啓翁桜ばかりでなく周年、生け花、華道用に関わる色んな植物材料を生産するようになっています。気がつけば、親子2代で50年の歴史が過ぎていました。
雑木林を開墾5年 啓翁桜
啓翁桜を初めて導入した正幸さんのお父さんが、その頃誰も相手にしていなかった花木(かぼく)とうい分野に参入しましたことからはじまります。50年以上前のお話です。昭和30年代後半から原野と雑木林の開拓を始め苦労の末40ヘクタール(東京ドーム約10個分)を5年かけて開拓しました。
花木(かぼく)というと生け花、盛花、フラワーアレンジメント、ブーケ、創作デザイン、オブジェなどの脇役になります。その中の1本の材料という地味な商品作りを始めたといいます。もちろん時代はまだ物資が充分ではなかった時代だけに苦労は多い中、右肩上がりの経済の行く末に希望をもっての見切り発車といえなくもありません。
啓翁桜はカボク 花咲かす樹木
ちなみに、花木(かぼく)とは観賞に値する美しい花を咲かす樹木をさすが、広義には観賞のため栽培される果実や葉をつけるものも含む。開花期により春夏秋冬の花木に分けられます。主に生け花の材料に主に使われ、深く探していくと多様なニーズが見出される分野です。華道家の假屋崎(かりやざき)さんなども色んな素材を探して高橋さんとは取引があります。
どんな種類があるかというと、ほんの一部ですが・・・ウメ、ボケ、マンサク、ジンチョウゲ、レンギョウ、アジサイ、サツキ、ツツジ、ボタン、クチナシ、ムクゲ、サザンカ、ツバキ、ロウバイ、そのほか実の美しいナンテン、ウメモドキ、ムラサキシキブなどをいいます。
タカハシ指名買い香港市場
今から4年ほど前にさかのぼります。JAの啓翁桜部会に山形県のジェトロを通して啓翁桜を香港に輸出しないかという話が届きました。悪い話ではないと仲間10人と輸出という言葉に惹かれて始めました。取引がはじまって何ヶ月かするうちに、取引が無くなってきたといいます。
怪訝に思っていると、JAの啓翁桜部会から「向こうは高橋さんの啓翁桜だけがほしいと指名してきている」ということでした。「やはり、レベルの高い良い商品だけ欲しいんだ」と香港という経済市場の厳しさを強く実感したということです。
香港に出向いて新しい取引が
その後、しばらくすると全容がよくわかってきました。香港には高橋さんを指名して買い付けている花の販売会社があって品質の飛びぬけて良い高橋ブランドの啓翁桜だけを強く求めているという話だったのです。
「一度会って話してみる事だ」と香港に出向いてその会社の担当者とも会い、信頼を深めて今は毎年季節になると取り引きが続いています。気付いたことは「信頼できる人には会ってみる」ということで出向いたことは大きかったと言っています。
海外だけに信頼関係が大切、会ってみると信頼がたかります。そして年々その数量は多くなって対応しきれない状態までなっているという贅沢な悩みになっているようです。
▼啓翁桜を愛でる 冬咲く桜のデパート展示