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くだもの歳時記

酒米として甦る「亀の尾」とは

庄内平野 亀の尾 お米作り

亀の尾 現代に活躍する


近年、「亀ノ尾」種は酒米として優れていることが認められ、山形県庄内町の鯉川酒造(株)が力を入れ栽培まで取り組んだこともあり、全国三十数社の酒蔵で大吟醸酒などの原料米(酒米)として利用され、優れた酒米として称賛されるようになりました。

 

しかし、亀の尾は本来、現在の良質銘柄米の代表的な「コシヒカリ」「ササニシキ」「はえぬき」などは、「亀ノ尾」種のDNA(遺伝子)を持ちこれらの良質米のルーツをたどると、その元祖はすべて「亀ノ尾」にたどり着きます。

 

日本酒の漫画『夏子の酒』にも登場して近年、注目の「亀の尾」とはどんなお米なのか。味わい、系譜、生産地などの概要を調べてみました。

 

近ごろお酒造りの原料米として名前をよく見かけるようになった「亀の尾」。日本酒漫画『夏子の酒』(尾瀬あきら)をきっかけに知った人も多いかもしれません。

 

実は知る人ぞ知るお米の歴史の中で由緒正しきお現代の美味しいお米になくてはならないご先祖の品種です。

 

亀の尾 阿部亀治 お米作り

青果近くにある阿部亀治翁頌徳碑 山形県庄内町


 

亀の尾 名前の由来とは


今から100年以上前の1893熊谷神社(山形県東田川郡庄内町)へお参りに来ていた米農家の阿部亀治氏が、冷害のなか元気に実を結んでいる3本の稲穂を発見しました。

 

その年の山形県は稲作が極端な不作で、ほとんどの稲が倒れているような状況だったのです。阿部氏はこの状況を打開するため、3本の稲を持ち帰り、研究を重ね、品種改良と量産に成功します。

 

この水稲品種に友人が「亀ノ王」と命名するように勧めたが、王では僭越だとして「亀ノ尾」と命名した。ここに新品種「亀ノ尾」が創選・誕生した。

 

そして、各地からの「亀ノ尾」種の種籾を分けて欲しいという要請に、亀治は快く応え、分け与えて「亀の尾」は広がっていきました。亀治の人間味あふれる、この献身的な取り組みから年々歳々、徐々に全国的(台湾・朝鮮半島にも)に普及しました。

 

亀の尾 コシヒカリ つや姫

亀の尾は多くの優良品種の交配親で活躍している


 

幻の米と呼ばれる亀の尾


その後も米の品種改良に取り組み続けた阿部亀治氏は、大正から昭和にかけていくつかの名誉ある賞を受賞しました。そして亀の尾はその後、各地での品種改良を経ながら東日本へと拡大していきます。やがて酒造りにも使用されるようになり、一時は「西の雄町」「東の亀の尾」と呼ばれるほど有名になっていました。

 

しかし、1925年頃にピークを迎えた後は、さらに改良の進んだ新品種が登場するにつれて徐々に作付面積が減っていきます。戦前には各地の奨励品種として挙げられなくなり、1970年代にはついに栽培が途絶えてしまいました。

 

コシヒカリ、ササニシキなどの次世代の美味しいお米が活躍し始めたころです。子孫に王座を明け渡すことも目栄誉なことに違いありません。

 

亀の尾 阿部亀治 お米作り

庄内平野のお米作りは亀の尾に始まるといって過言ではない


漫画「夏子の酒』で話題に


時は流れて、1988年。講談社の雑誌『モーニング』にて「夏子の酒」という漫画が連載を開始しました。この酒蔵のモデルは、新潟県長岡市にある老舗の「清泉」の久須美酒造です。実は、久須美酒造の6代目当主氏は、漫画に登場する幻の米「龍錦」のように、亀の尾の復活のために奮闘していた人物といいます。

 

『夏子の酒』をきっかけに、再び亀の尾は話題になっていきます。この漫画は1994年になるとドラマ化もされ、徐々に亀の尾の知名度は高まっていきました。

 

日本酒漫画で取り上げられたこともあり、亀の尾は酒米(酒造好適米)であると誤解されることが多いのですが、元々は主食用の飯米です。

 

亀の尾 お米品種 酒米

お米の品種の源流になっている「亀の尾」は未だに活躍


亀の尾は主食用うるち米


今では日本酒の原料として利用されることが多いですが、当初は飯米として普及していました。亀の尾は、数々のブランド米のルーツとなっています。

 

亀の尾は山形県で阿部亀治氏に発見・改良されて以降、美味しい食用米として知られていました。ところが、同じく三大水稲品種である「陸羽20号」との交配によって「陸羽132号」が誕生してからは、トップの座を譲ることとなります。

 

その後、親勝りの子と言える「陸羽132号」を通じて「亀の尾」の優れた遺伝子は引き継がれ、「コシヒカリ」「ひとめぼれ」「ササニシキ」「はえぬき」「つや姫」といった日本を代表するブランド米を次々と生み出してきました。このような系譜を考慮すると、亀の尾が日本の美味しいお米のルーツであるということがより鮮明になってきます。

 

つや姫 亀の尾 ササニシキ

山形のつや姫は源流には亀の尾が


 

亀の尾 発祥産地 山形県では


もちろん亀の尾の代表的な産地であり発祥の地でもある山形県です。山形県では、誕生から昭和3年までの20年間、亀の尾が主食用の品種としてトップに君臨していました。

 

その後、亀の尾の子孫にあたるササニシキが昭和30年代に活躍が始まり、昭和60年代まで昭和の長い年月にわたり活躍しました。東北の各県、宮城県、山形県の主力品種で活躍する時期が長く続きました。

 

そして平成22年になると、亀の尾をルーツとした、山形県を代表するブランド米、「つや姫」が誕生します。

 

つや姫は名前の通り、食味が抜群でしかも色艶が優れており、甘味と旨味をバランスよく兼ね備えた人気の銘柄米、山形を代表する品種になりました。

 

酒米 蒸し 吟醸酒

酒米として亀の尾は新たな境地に可能性が


 

亀の尾と日本酒好適米


 山形県以外でも亀の尾は栽培されています。例えば、『夏子の酒』のモデルとなった酒蔵・久須美酒造は、新潟県にある酒蔵。現社長である久須美記廸氏は亀の尾の種もみを探し出し、そこから栽培した米を使って「亀の翁」という銘酒を誕生させました「亀の翁」は口に含むとフルーティーな香りが広がり、切れ味が良く、すっきりとした好印象のお酒です。

 

また、宮城県石巻市では、日本酒として使用するために亀の尾の全量契約栽培がおこなわれています。

 

岩手県の菊の司酒造「純米生原酒 菊の司 亀の尾仕込み」は、この亀の尾が持つ米の旨味をしっかりと引き出した純米酒です。無濾過生原酒であるため、亀の尾が醸し出す旨味をダイレクトに感じることができます。

 

酒米 うるち米 お米作り

亀の尾の活躍は100年を経ていまだに進化を続ける


 

今でも活躍する亀の尾


このように明治期の3本の穂から生まれ、阿部亀治が苦労の末に品種改良し希望を持ち人間味あふれる普及の末生まれた亀の尾、誕生から100年以上過ぎた今でも、日本酒の中で、品種改良の親として、またその子孫で在る数々の銘柄のお米として活躍してくれています。

 

 

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