山形県果樹の凍霜害について
山形県では、さくらんぼをはじめ、りんご、ぶどう、西洋なし、もも、かきなど、多くの樹種が栽培されています。栽培面積は、さくらんぼと西洋なしが全国1位、ぶどうが3位、りんごとすももが4位、ももが5位、かきが7位(令和3年現在)と、全国有数の果樹産地であり、まさしく『果樹王国』として全国的に知られています。
一方で、近年は、気候変動・温暖化の影響と考えられる被害が頻発するようになり、安定的な果実生産が厳しい状況となってきています。
特に、令和3年は、3月に気温が高く推移したため、果樹の生育が平年より進んでいる状況で、4月9日頃から上空に寒気が入り込み、4月10日には低温、4月11 日、15 日、27 日には放射冷却に伴う強い降霜があり、県内全域で果樹を中心に農作物の被害が発生しました。
果樹の被害面積は、さくらんぼ、りんご、西洋なし、かきで大きく、全体で4,181ha(全農作物:4,201 ha)、被害額が129 億4,518 万円(全農作物:129 億9,283 万円)と、未曽有の甚大な被害となりました。
このような状況を鑑み、低温・降霜時の対策や、各樹種における凍霜害発生後の対策などを取りまとめてみます。
さくらんぼ降霜害のメカニズム
●上空に雲がない日は放射冷却(地表面物の熱が上空に放出される)が進み、0℃以下まで気温が低下すると、空気中の水蒸気が地面や物の表面に氷の結晶を作り霜になる。
●晴天で空気が乾燥している(冷却を弱める水蒸気が少ない)場合や、風が弱い(上空の暖かい空気と混ざり合わない)場合は気温が低下しやすく、強い霜になることが多い。
●植物体の温度は、放射冷却の影響で気温よりも低くなり、芽や花が凍る。
凍霜害の受けやすい時期
●発芽期以降、生育ステージが進むほど耐凍性が低下し、凍霜害を受けやすい。・近年、温暖化の影響で、3月の平均気温が上昇傾向にある。それに伴って生育ステージの進みが早まり、凍霜害が大きくなる可能性が年々高まっている。
※さくらんぼやりんごなどは、同じ生育ステージでも気温が高く雌しべの伸長が急激に進んだ場合(雌しべが軟弱になっている)は、被害が大きくなりやすい。
花芽の長さおよび凍霜害の危険度
1,生育ステージによって低温感受性が異なるため、生育状況を確認する。
2,「やまがた紅王」や「紅秀峰」は、「佐藤錦」よりも生育の進みが早いので注意する。
3,開花期以降でも、極端な低温に遭遇した場合は、子房(雌しべの基部で果実になるところ)の褐変や幼果のサビなどを生じる恐れがあるので注意する。
危険な日の特徴 地形 土壌環境
1,寒気の影響などで日中に気温があまり上がらず、夜間に風が無く晴れる(午後5時頃の気温が10℃以下、午後10 時頃の気温が5℃以下)場合は降霜の危険が高い。
2,特に土壌が乾燥している場合は、夜間の気温低下が早まる。
3,寒冷前線が通過する時は、(雨が降っていても)急に気温が低下することがある。・空気が動きにくい場所や、冷気が溜まりやすい場所・流れ込みやすい場所(窪地、防風林・防風網等に囲まれた場所、傾斜地の下部など)では、霜害が発生しやすい。
4,地表面の被覆物(敷きワラ、マルチなど)や繁茂した雑草は、園地内の気温低下を助長する。
さくらんぼ花芽の凍霜害の危険度
1,生育ステージによって低温感受性が異なるため、生育状況を確認する。
2,「やまがた紅王」や「紅秀峰」は、「佐藤錦」よりも生育の進みが早いので注意する。
3,開花期以降でも、極端な低温に遭遇した場合は、子房(雌しべの基部で果実になるところ)の褐変や幼果のサビなどを生じる恐れがあるので注意する。
果樹の凍霜害の対応策とは
気温が急激に下がることで起きる凍霜害(とうそうがい)。霜が降りるほどの低温により、作物の細胞内外の水分が凍り細胞が破壊れて枯れ死してしまう現象です。新芽や蕾が枯れてしまうと収穫量は激減し、品質低下などの悪影響がでます。
2021年4月中旬、全国で急激に気温が下がり岩手県のリンゴ、山形県のサクランボやブドウ、福島県の桃や柿、栃木県の梨、長野県のリンゴやアスパラガス、和歌山県のお茶など各地の農産物への甚大な被害がニュースとなりました。対策は、なんらかの方法で霜を防ぐこと。
●さくらんぼ園地の凍霜害対策法
燃焼法:稲わらや固形燃料を燃やして空気を温める方法。一晩中の燃料を用意し、火力の調節をする必要があります。
送風法:高所に設置した防霜ファンを使い、上空の温かい空気と地上付近の冷たい空気を攪拌して降霜を回避する方法。
被覆法:作物を直接被覆材で覆い、その被覆材に霜をつける方法。背の低い作物(野菜など)に有効。
散水氷結法:スプリンクラーで水を撒き、水が氷になるときの潜熱を利用して作物の温度を0℃前後に保つ方法。
さくらんぼが凍霜害を受けたら
◆凍霜害後の対策
・大きな被害を受けても、その後の管理で十分な結実を確保した事例もあるので、あきらめずに以下の対策を徹底する。
●人工受粉
①受粉樹の確認
・受粉樹の雄しべや葯の被害状況をみて、花粉が出るかどうか確認する。
・老木や樹勢が弱い樹は凍霜害を受けやすいため、特に注意して確認する。
②受粉の方法
・毛ばたきなどを用いて、晴れ間を逃さず少なくとも3回以上行う
●結実確保対策の徹底
①切り枝利用:開花直前の太めの枝を切除し、バケツなどに水差しして受粉樹が少ない場所に設置する。
②灌水 :受粉に水分は不可欠であるため、乾燥が続く場合は積極的に灌水する。
次年度さくらんぼの対策として
摘芽の工夫。紅秀峰」などは芽欠き作業を
・凍霜害に遭いやすい目通り(2m)以下の枝や上向きの短果枝では、1 芽多く残す。
・毎年凍霜害が大きい園地では、摘芽を控え、早めの摘果で対応する。
- 受粉樹の混植
・品種によって開花期の早晩や凍霜害の程度が異なるので、複数品種の受粉樹を導入する。
・受粉樹は、園地全体の3割程度を目標に導入する。
- 訪花昆虫が活動しやすい環境づくり
・マメコバチの管理を徹底する(マユ洗浄、ヨシ筒の設置など)
・交配専用ミツバチを積極的に導入する。
・風上に防風ネットを設置する(多面設置はハチの移動に支障が出やすいので注意)
山形県の凍霜害の頻発地域マップ
本マップは、凍霜害における頻度を地域別に各総合支庁の農業技術普及課がJA や生産者から聞取りし、農林水産部農業技術環境課がまとめてデータ化したものです。
▼さくらんぼの花が満開に