蜜入りに魅了され早く導入
生産者のお話しより・・・。
私が「こうとく」に出逢いこのリンゴの凄い蜜入りに惚れてこの品種に接木をはじめたのは今から18年前です。接ぎ木の台になるリンゴの樹は二男が生まれた記念に植えたジョナゴールドという品種でした。
この樹は、その時21年目に 入りこれからが稼ぎ時の樹でしたが、この品種に見切りをつけて、樹齢21年の樹に接ぎ木を始めました。だれも見向きもしない「こうとく」に何か光る魅力を感じたからだと思います。
同時に「こうとく」の接ぎ木するための枝を養成するために植えた「こうとく」苗が大きくなるとその中でも玉伸びと品質の良い実を付ける枝だけを選抜して、どんどん高接ぎ(苗を接木)を続けて行ったのです。
約30アールのリンゴに「こうとく」接ぎ木し終わるのに4年の歳月がかかりました。中々根気のいる作業でしたが、「蜜入りたっぷりの大玉の『こうとく』が生産できるはずだ」という大きな希望が心を支えていた気がします。
今では元になる樹の歳も含め樹齢35年のこうとくは山形県では、ウチの以外ないはずです。はたらき盛りの21年の樹に接ぎ木していったので結果的に私の「こうとく」がいちばん古い樹だと思います。
こうとくは小玉のりんご
しかし、ようやく収穫が始まった当初は期待した通りの市場評価とはならないどころか、見た目が悪いのと、蜜入りは良いのですが思った以上に小玉のリンゴしか出来ずに嫌われ、全くの不評でした。
そして、それによって長い間、販売不振に陥り、つらく悩んだ時期もありましたが、ようやく最近になって沢山の方から悦びのお声掛けをいただけるようになりました。
今思うと、販売不振が続き、どんな苦しい時でも「必ず大玉の『蜜たっぷりのこうとく』が生産できるはずだ」という自分の技術への自信は無くさないで続けることが出来たことはとても不思議に思います。
苦しかったあのころを振り返るとき、続けてこれたのは「あなたの選んだリンゴだから、いつかわかってもらえるから・・・」と言って支えてくれた妻の言葉があったからだと思っています。
きっと大玉が出来ると信じて
不思議に思われるかしれませんが、果樹には同じ品種でも少しずつ出来る果実や生育に違いやバラツキが生まれます。色着き良いの系統とか、糖度が高い系統とかいろいろその樹ごとの特性(たち)があります。
大玉になるには訳があって、私が接ぎ木した樹齢35年の樹はこうとくとしては毎年大玉の実になりやすい特性(たち)があります。この系統はその上、蜜入りもいいのです。
当時、周囲の樹と比べると玉伸びが格段に良い実が目につきました。そしてこの樹から生まれる果実はサイズが他と違っていました。同様の大玉を中心に他のこうとく生産者の皆さんのサイズと比べても違いが歴然としていることにある時気づいたのです。
素質に惹かれて育成する
私はこの1本の樹の特性(タチ)の良さに目をつけ、この樹の系統だけに絞ってどんとん周囲の樹に接ぎ木して増やしていきました。
そして、長い年月が過ぎこの系統のこうとくは今では私の果樹園全体に広がりました。一部のわい化台木(果樹の大きさを小さくして作業しやすい樹)を除きますが。
蜜入りも他と比べるとかなり良いのです。その年のお天気によって蜜入りは変化しますが、蜜入りが悪い年でも時でも蜜入りが平均以上に入ることも確認できました。
もちろん樹齢35年になると幹も枝もかなり堂々としているので土台がしっかした樹だから安定して大玉を生産してくれるのだという声もあります。
ふじとは違った特徴のある有望な品種を探して20年以上の時間をかけてきました。こうとくに将来性を見出してからは、生産性や性質の良い系統だけに絞って、継続的に増やしてきた地道なやり方が現状を支えているのだと自分では思っています。
有機質ふんだんの土づくり
私は果樹園で有機肥料をふんだんに使います。一部品質の良い化学肥料も使います。安全性がいろいろと取りざたされていますが、私には味の面で気にかかることがあるのです。微妙な雑味を感じてしまうのです。
そしてまた、化学肥料中心の栽培では長い目で見たときに安定したリンゴ生産に悪影響が出てしまう気がしています。有機質中心の土作りをしないと本来の土の力が失われていくような気がしてなりません。
美味しいものを長い目で安定的に美味しく生産するには良質の有機質である完熟堆肥を利用し手間を惜しまないで土壌細菌を活性化できる土作りすることにこだわりを持っています。
なぜなら私たち生産者はお天気に大きな影響を受けてリスクを背負っているので、今年だけ良ければという考え方は出来ないのです。
土作りをしっかり行って土を大事にして毎年変化する気象の変化に強い果物栽培が求められています。
果樹の苗木屋さんに原木を
私はリンゴ栽培が好きで、長くリンゴ栽培に携わってきたのでリンゴ栽培についての情報は全国から入ってきます。生産地、生産者を問わず青森や秋田、福島の意識の高い生産者とも良く交流をしています。
あるとき山形県の果樹苗の会社から頼まれていくつかのリンゴの苗の元になる穂木(苗木の元になる枝)を提供するようになりました。
苗木屋さんは、ウチの穂木を増殖させて、台木に乗せて何百、何千と育成して生産者に販売しています。
ウチのリンゴの原木の特性(タチ)の良さに目を付けてのことのようですが、リンゴ生産の行程で少しでもお役に立てたら素直に嬉しい限りです。
こうとくの歴史をふり返る
こうとく生産者の天童市の阿部さんは山形県でいちばん早く蜜入りりんご「こうとく」の生産に本格的に取り組みました。市場での評価は散々だったため、人知れず苦労の連続。ようやく、蜜女王 「こうとく」として認知されるようになったのはつい最近と言えるでしょう。
そして、こうとくは全国のリンゴ産地に広がり腕自慢のリンゴ農家の方々が次の高見を目指していくようになっています。
阿部さんの言葉からいくつかのエピソードをお伝えします。
私はリンゴ栽培が大好きです。自分のリンゴが多くの生産者に広がっていくことは嬉しいことで仕事に対して情熱と責任が生まれてきます。
生産者みんなのレベルが高まって産地全体が良くなっていくことを考えています。山形のリンゴの生産のレベルが高まることを願っています。高齢化、後継者不足の中で何とか山形リンゴの生産地を盛上げて次代に繋いでいきたいものです。
そして、過去にとらわれず、いつでも弛まず新しいことに挑戦していくことが将来に繋がる大事なことだと感じています。